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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)3275号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

一  当裁判所も、控訴人の当審における主張を併せ考えても、被控訴人の控訴人に対する請求は理由があり、これを認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決の理由説示中、控訴人関係部分と同一であるから、これを引用する。

1  原判決四枚目表一〇行目「本件土地の占有権原を失つたから」を「本件土地に対する占有権原なくして、本件土地上に二の建物を所有しているから」と改める。

2  同表末行目から同裏六行目までを次のとおり改める。

「3 控訴人は、二の建物には控訴人のために「譲渡担保」を登記原因とする所有権移転登記が経由されているところ、譲渡担保による所有権移転の効力は、債権担保の目的を達成するのに必要な範囲内においてのみ認められるものであつて、完全な所有権移転の効力は認められないから、本件土地上に存在する二の建物の譲渡担保権者にすぎない控訴人には、建物収去・土地明渡しの義務がない旨を主張するので、この点につき付加判断する。

土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによつてその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきところ、他人の土地上の建物につき譲渡担保権を取得して所有権移転登記を経由した者は、たとい譲渡担保権の実行前であつても、譲渡担保権設定者が土地に対する占有権原を喪失した場合には、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を負い、建物所有が債権担保目的にすぎない旨を主張して右義務を免れることはできないものと解するのが相当である。けだし、譲渡担保は、債権担保のために目的物件の所有権を移転するものであり、右所有権移転の効力が債権担保の目的を達するために必要な範囲内においてのみ認められるものであるとしても、建物に譲渡担保権の設定を受けた者は、その敷地所有者等第三者に対する関係においては、譲渡担保権実行前であつても、右建物を所有することにより敷地を独立に占有する者であるというべきである(もし、譲渡担保権者に独立の占有がないとすれば、敷地所有者は、譲渡担保権者に対する債務名義なくして当該建物収去・土地明渡しの執行が可能となり、譲渡担保権者の利益を害することになる。)。そして、譲渡担保権設定者が敷地所有者に対し、敷地の賃借権を有するときは、譲渡担保権の設定により当然に右賃借権が譲渡担保権者に譲渡され、あるいは敷地に対する転借権を取得するものではなく、譲渡担保権の実行に至るまでは、譲渡担保権者は敷地所有者に対し、自己の占有権原として譲渡担保権設定者の占有権原を援用し得るにすぎないと解すべきであり、したがつて、譲渡担保権設定者が土地に対する占有権原を喪失した以上、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しを拒むことはできないものというべきであるからである。よつて、この点に関する控訴人の前記主張は採用することができない。」

二  以上のとおりであつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒田直行 裁判官 古川正孝 裁判官 三浦 潤)

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